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東京高等裁判所 昭和34年(ラ)696号 決定

抗告人 松本良順(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

抗告人ら代理人は、原審判はこれを取消し本件を東京家庭裁判所に差戻す、との裁判を求め、抗告理由については、後に提出する準備書面によつて明らかにするというのみで、特別の理由を主張していない。しかるに、今に至るも準備書面を提出しない。記録を調査しても原判決に違法や不当な点は認められないし、抗告人が原審において改姓申立の理由として主張するところに対する当裁判所の判断は、次の点を補足するほか、原審判の理由に詳細説明するところと同一であるから、ここにこれを援用する。

甲第一ないし第五号証及び松本桃代提出の上申書は、救護栄海大僧正が抗告人良順に救護姓を継がせ、救護姓を絶やさず永久に存続させたい意思を表示していたこと及び救護姓を継がせることが天台宗のためにも有意義であることの資料にはなつても、抗告人主張のように輪王寺の住職になるには救護の姓を名乗ることが実質的要件であるとの事実を認める資料にはならない。その他抗告人の右主張を認めるに足る資料は何もない。のみならず、かりに、右のような事実があつたとしてもこの事実ならびに救護栄海大僧正が前示のような意思を表示していたことが改姓するについてのやむを得ない事由とならないことは原審判の理由に説明するとおりである。また抗告人に救護の姓を継がせることが天台宗のために有意義であるとしても、これまた改姓についてのやむを得ない事由とは解せられない。

よつて原決定は正当で本件抗告は理由がないから、これを棄却すべきものとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条、第九十三条に則り、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 薄根正男 判事 村木達夫 判事 元岡道雄)

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